研究

RESEARCH

ヒューマン・オブジェクト・インタラクション:モノに対する作法


ロボットコンテストの名言の一つに、「モノづくりは人づくり」というのがあります。
ロボット作りを経験すると、身近なモノを大事に扱う作法が身につくだけでなく、ひいては自然というより広い環境に配慮する人が育つということです。そこで、モノに対する作法を定量化する心理評価尺度を作成し、環境配慮行動との関連などについて検討しました。モノに対する作法が身についていると、そのモノとの一体感を高く感じることや、環境配慮行動を頻繁に行うこと、これは結果的に個人のwell-beingにつながることを明らかにしました。
詳細は以下の論文にありますが、ここでは尺度の概要を簡単に説明し、日本語版の尺度内容を紹介します。
■Kamide, H., & Arai, T. (2021). Caring for Things Helps Humans Grow: Effects of Courteous Interaction with Things on Pro-Environmental Behavior. Sustainability, 13(7), 3969.

モノに対する作法は、2つの要素から構成されています。
一つは、人からモノへのケアです。これは、人が積極的にモノを壊れないように丁寧に扱ったり、整理整頓する側面を意味しています。
もう一つは、人がモノから学習することがあります。これは、人がモノとのインタラクションから気づきを得て、モノに対する礼儀や他者への感謝を学習するという側面です。
基本的には、各因子のすべての項目の平均値を、各因子の得点として用います。研究の目的に応じて、対象となる物や身近な物について回答を依頼するなど、対象を特定して使います。

人からモノへのケア
【回答方法】1:全く当てはまらない〜7:非常に当てはまる
1.物を丁寧に扱うようにしている
2.物を乱暴に扱わないようにしている
3.物を壊れないように気を付けている
4.物を使い終わった後は、きちんと片付けをする
5.物を扱うにあたっては、整理整頓を心がけている
6.物を清潔に保つようにしている
7.物を優しく使うようにしている
8.物を汚さないよう綺麗に使っている

モノから人への学習
【回答方法】1:全く当てはまらない〜7:非常に当てはまる
1.物を使うことを通して、周囲の人に対する優しさを学べるようになった
2.物を使うことで、自制心が身についてきた
3.物を使うことにより、自分の精神力が養われてきた
4.物を使うことで、物に対する礼儀がわかるようになってきた
5.物を使うことで、一般的に道具を使う際、丁寧な所作になってきた
6.物を使うことで、一般的に物を大事に扱うようになった
7.物を使うことを通して、物のありがたさを感じるようになった
8.物を使うことを通して、一般的に、道具を使う良い仕草が身についてきた


ヒューマノイドロボットに対する心理的安心感評価


サービスロボットの実現に向けて、物理的安全性と共に、心理的安心感も重要になると考えられます。
そこで、サービスロボットとして開発が進んでいるヒューマノイドロボットに対する心理的安心感を、一般ユーザの視点で定量化する心理評価尺度を作成しました。
詳細は以下の論文にありますが、ここでは尺度の概要を簡単に説明し、日本語版の尺度内容を紹介します。
■H. Kamide, K. Kawabe, S. Shigemi, and T. Arai, 2015, Anshin as a concept of subjective well-being between humans and robots in Japan, Advanced Robotics, 29(24), 1-13

ロボットに対する安心感は、5つの要素から構成されています。
特に、最初の4つの要素はヒューマノイドロボット一般に共通して重要となる、安心感の要素と考えられます。
最後の1つの要素は、ロボットによって、得点の高さの意味が異なる可能性があります。
基本的には、各因子のすべての項目の平均値を、各因子の得点として用います。ただし、逆転項目がある因子(統制可能性とロボットらしさ)に関しては、逆転項目のみ逆転させてから、他の項目と合わせて平均します。
研究の目的に合わせて、適宜、項目を選択して使ってもよいです。ただし、信頼性係数の確認などは必要です。

1.快適性
ロボットと一緒にいることによって得られる、安堵感や快適さなど、心理的にポジティブな効用があることを意味する因子です。この得点が高いほど、ロボットに対して親しみを感じ、一緒にいることで感情的に安らかで快適な気分になり、安心できることを意味します。

【回答方法】1:全く当てはまらない〜7:非常に当てはまる
1.心が安らぐロボットだと思う
2.ほっとする感じがする
3.このロボットは、自分のことを癒やしてくれそうだ
4.このロボットには安心感を感じる
5.このロボットの動き方は親しみやすい
6.このロボットの見た目は親しみやすい
7.このロボットとは、落ち着いて一緒にいられそうだ
8.このロボットの反応の仕方は、やさしい感じがする
9.このロボットは、丸みを帯びたデザインである
(注意1:「このロボット」や「ロボット」は適宜、使うロボットの名前に置き換えて使用してもよい。)

2.ストレス
ロボットと一緒にいると、不安になったり、ストレスを感じるなど、心理的にネガティブな影響があることを因子です。この得点が高いほど、ロボットと一緒にいることで落ち着かない不安な気分になり、安心できないことを意味します。

【回答方法】1:全く当てはまらない〜7:非常に当てはまる
1.このロボットと一緒にいると、気持ちが落ち着かない
2.このロボットには、ストレスを感じる
3.このロボットには、不安を感じる
4.このロボットの色使いは、落ち着かない感じがする

3.性能の高さ
ロボットが人間や周囲のことをきちんと判断し、道具としての性能が高いことを意味する因子です。この得点が高いほど、ロボットが自分の指示通りに動いたり正確な判断をするなど、性能が高くて安心できると感じられることを意味します。

【回答方法】1:全く当てはまらない〜7:非常に当てはまる
1.このロボットは、こちら側の問いかけに対してきちんと応答してくれそうだ
2.このロボットは、人間の言うことを正確に理解してくれそうだ
3.このロボットは、周囲の状況を認識できていると思う
4.このロボットは、周囲とぶつからずに動けそうだ
5.このロボットは、こちらの指示通りに動いてくれそうだ
6.このロボットは、自分が必要とする時に役だってくれそうだ
7.このロボットは、事前に行動を予測できるような配慮をしてくれそうだ
8.このロボットは、対象に見合った力加減をしてくれそうだ
9.このロボットは、状況に合わせて融通を利かせてくれそうだ
10.このロボットは、不具合が生じても、人間の力を借りずに自律的に動けそうだ
11.このロボットは、人間と意志の疎通ができそうだ

4.Contorollability 統制可能性(逆転項目あり)
ロボットが暴走したり、人間のコントロールを超えて暴走したりしないことを意味する因子です。この得点が高いほど、ロボットが人間に危害を与えたり、想定外のことをしてしまわないだろう、と安心できること意味します。ただし、(-)がついている項目は逆転項目なので、点数を反転(1点→7点、2点→6点、3点→5点、7点→1点)してから、他の項目との平均値を算出してください。

【回答方法】1:全く当てはまらない〜7:非常に当てはまる
1.このロボットは、人間の身体に危害を加えそうにない
2.このロボットが暴走することはなさそうだ
3.(-) このロボットは、自身の操作の主導権を人間から奪いそうな気がする
4.(-) このロボットは想定外のことをしそうだ
5.(-) このロボットは、人間の悪い意図に利用されそうだ
6.このロボットは、人間の能力以上のことはしなさそうだ
7.(-) このロボットは、機密情報を漏洩しそうな気がする
8.このロボットは、いつでもすぐに緊急停止させることができると思う


5.Robot-likeliness ロボットらしさ(逆転項目あり)
ロボットの動きや見た目が人間とは遠く、ロボットらしさが感じられることを意味する因子です。この因子は上の4つと異なり、点数が高いほど、すなわちロボットらしいほど安心なのか、逆に、人間らしいほど安心なのか、はロボットによって異なることがわかっています。たとえば、見た目が明らかにロボットらしいロボットの場合には、人間らしさが感じられる方が安心であるという意味になったり、完全に人間に近いように思えるロボットの場合には、逆に人間らしさの得点が高い方が不安だという意味になったりすることがあります。研究の目的によってこの因子の使い方は変わる可能性があるということです。(-)がついている項目は逆転項目なので、点数を反転(1点→7点、2点→6点、3点→5点、7点→1点)してから、他の項目との平均値を算出してください。

【回答方法】1:全く当てはまらない〜7:非常に当てはまる
1.このロボットは、ロボットらしい形状をしている
2.(-) このロボットの外見は人間に近い
3.ロボットらしい動き方をする
4.ロボットであるということをきちんと意識させてくれる
5.(-) ロボットなのに人間だと思ってしまいそうだ
6.(-) このロボットと接すると、人間を相手にしているような気になりそうだ
7.(-) このロボットは、人間に近い動き方をする


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